ジェローム・カーン
Jerome Kern (1885-1945)
エドナ・ハーヴァーのベストセラー小説を基に、オスカー・ハマーシュタイン二世が作詞と台本を書き、ジェローム・カーンが作曲した 1927年初演の「ショウボート」は、アメリカで最初のミュージカルとされている。
それまでアメリカで上演されていたミュージカルが、ヨーロッパから持ち込まれたレヴューやオペレッタの形式であったのに対し、「ショウボート」は、芸能一家の生活を縦軸に、正面から人種差別の問題をとりあげ、まったく新しい演劇形態を試みた舞台だった。
現在のブロードウェイ・ミュージカルは、この「ショウボート」の上演から始まったのだ。
ジェローム・カーン、1885年、ニューヨーク生まれ。
裕福なドイツ系ユダヤ人の父親は、息子にビジネスの世界に進むことを望んだが、カーンはティンパン・アレーで楽譜販売の仕事をしながら、作曲家としての活動を始めた。
カーンと同世代の音楽家には、ドイツやロシアなどからの移住者が多い。そのせいか、彼が生粋のアメリカ生まれであることは、しばしば強調して語られている。
アメリカという国は移民が寄り集まってできた国であり、母国を捨てた人々にとって、独自の文化を創りあげることは、確かなアイデンティティを獲得することでもあった。
アメリカで生まれた新しい文化を持つことで、精神的な、本物の独立を宣言したかったのだろう。
その独立心は異常なほど強く、「大統領はアメリカ生まれでなければならない」と法律で規定しているほどだ。
ジェローム・カーンがアメリカで生まれた最初の作曲家として語られるとき、そのような時代背景があったことは知っておいていいと思う。
「ショウボート」は、公の舞台で黒人のブルースが採りあげられた最初のミュージカルとしても知られている。
このときこそ白人の文化が初めて黒人の文化に接触し、真のアメリカ音楽が始まった瞬間だった。
今宵も、ジェローム・カーンに乾杯!