Night and Day
1932年
作詞・作曲／コール・ポーター Cole Porter
ジャングルに夜の帷が降りる頃
トントントン、タムタムの響き
チックチックチック、時を刻む壁時計の針音
ポタンポタンポタン、夕立のあとで水滴が落ちる音
反復される心の響き、それは、きみ、きみ、きみ
夜も昼も、きみだけしかいない
傍にいなくてもいいんだ、きみが何処にいるのかなんて関係ない
夜も昼も、ぼくはきみだけなのさ
昼も夜も、きみに夢中
交通渋滞の騒音の中でも、部屋に独りっきりの静寂の中でも
夜も昼も、ぼくはきみを想っているのさ
夜も昼も、昼も夜も
飢えた欲望が、身体の内側で熱く燃えたぎっている
この苦しみは消えはしない
ぼくの愛にきみが応えてくれるまで、決して消えはしない
昼も夜も、夜も昼もだよ！
コール・ポーターが、１９３２年のミュージカル『Gay Divorce（陽気な離婚）』のために作った曲です。
ポーターは大学時代から出演する役者に合わせて、アテ込みで曲を書いていたので、この曲も主演のフレッド・アステアの声質を考慮して作曲されています。
舞台は３４年に映画化され、ここでも主演のフレッド・アステアが唄っていました（邦題『コンチネンタル』）。
しかしこの映画版は、舞台とは異なるストーリーで、音楽もポーターの「Night and Day」以外は別の作曲家のものに差し替えられている、つまりヒットナンバーの「Night and Day」と、タイトル『Gay Divorce』だけを借用した別作品です。
1946年にワーナー・ブラザースは、ポーターの伝記映画『夜も昼も（Night and Day）』を製作。ここでも「Night and Day」は使用されていました。
もっともこの映画、ほとんど創作されたストーリーで、真実なのは使用されている音楽がコール・ポーターであることだけ、と酷評されました。ポーターを演じたのはケーリー・グラント。監督は職人肌のマイケル・カーティス。彼がバイセクシャルだったことなんて、何処にも描かれていません。
コール・ポーターは実に嘘っぽい人で、インタビューなんか矛盾だらけ。なにが真実かなんて、今となっては誰にも分からなくなっています。
「Night and Day」も、「モロッコの寺院で地元の住民たちが礼拝するときのむせび泣きを聴いて書いた」とニューヨーカー誌に本人の記事が掲載されましたが、１９３８年ワールド・テレグラム誌のインタビューでは、「リッツ・カールトン・ホテルに泊まっていたときに作曲し、翌日、ニューポートの浜辺で寝っ転がりながら歌詞を書いた」と応えています。
そもそも、ポーターはなぜモロッコなんぞにいたのか？
それは……彼はフランスに渡航した際、外人部隊に入隊して……当時フランス領だったアフリカへ渡った……ほらね、すげぇー嘘っぽい人でしょう？
歌詞は如何にもポーターらしいもので、特に「There's an oh, Such a hungry yearning, burning inside of me（ぼくの身体の内部で、熱い、飢えた欲望が燃えたぎっている）」のくだりは自由闊達＆卑猥の極み！ ポーターならではの猥雑さであります。
レコードは、1933年11月、レオ・ライスマン（Leo Reisman ）楽団の伴奏でフレッド・アステアが初録音しています。ここに紹介しているＣＤは、その翌年録音したＲＫＯ映画のサウンドトラック盤です。アステアは、他にオスカー・ピーターソンと共演したレコードや、最後のレコーディングとなった1975年８月のセッションでも「Night and Day」を録音しています。
フランク・シナトラは40年代にラジオ番組のテーマに使っていただけあって、音楽生活の節目節目に録音を残しています。かなり遅めのテンポで唄っているReprise盤（ゆったりし過ぎで、ヴァースの部分なんか、まるでお経のように聞こえます）もありますが、推薦盤はネルソン・リドルのダイナミックなアレンジが冴える、1957年のCapitol盤です。
ヴァースをスローなテンポで流したあと、スキャットを交えた高速歌唱がスリリングなアニタ・オディも、実に粋です。
こんな機会でないと絶対に聴かない、悪名高いソニー・ロリンズのスタンダード集を、久々に聴いてみました。RCAの莫迦社員がセールス重視でソロ・プレイをブツ切りにしてしまった極悪非道の１枚であります……しかし、短くてもロリンズはロリンズ、豪快でありました。
