All of You
1954年
作詞・作曲／コール・ポーター Cole Porter
貴方の表情が好きよ、魅惑されちゃうわ
スウィートで純粋な貴方
その瞳、その腕、その口許が好き
東西南北、貴方のすべてが大好きなの
貴方を完全にコントロールできたらいいわね
貴方の心臓も魂も、この手に掴めたら素敵だわ
だから、ほんのちょっぴりでいいから、私のことも愛して頂戴
だって、私は貴方のすべてを愛しているのよ
エルンスト・ルビッチ監督の代表作の１本『ニノチカ Ninotchka』（1939年）は、いつまでも祖国に戻ろうとしないソ連の商務省役人を監視するべく、花の都パリに派遣された謹厳実直な共産党員ニノチカ女史（グレタ・ガルボ）が、プレイボーイ（メルヴィン・ダグラス）と恋に落ち、やがて自由な資本主義を謳歌するようになるという、シニカル・コメディの傑作。
クールで神秘的な美貌が人気だったガルボが出演した初めてのコメディ作品で、公開時の宣伝コピーは「Garbo Laughs!(ガルボが笑う！)」。
（但し、ガルボの笑い声は別人のアテレコだったらしい）
『絹の靴下 Silk Stocking』（1955年初演）は、映画『ニノチカ』のミュージカル版で、「All of You」はこのミュージカルためにコール・ポーターが書いたナンバー。
舞台ではドン・アメチが唄い、1957年製作のＭＧＭ映画『絹の靴下 Silk Stocking』では、フレッド・アステアとシド・チャリシが唄っていました。
映画版の音楽監督は、アンドレ・プレヴィン。
コール・ポーターが書いた歌詞には、「I've Got You Under My Skin」のように、大胆な肉体表現にギョッとするものが少なくありません。このナンバーでも、「貴方の心臓も魂も、この手に掴めたら素敵だわ」のあたりは、もっともポーターらしい部分でしょう。原詩は「Handle even the heart and soul of you」ですから、「心も魂も」と訳してもおかしくはありませんが、相手の外側＝表層的なもの（心臓）も、内側＝精神的なもの（魂）も、なにもかも手に入れたい、という気持ちの表現として、「心臓も魂も」と訳しました。
「東西南北」も、原詩は「The east, west, north and the south of you」ですが、日本での慣用にあわせ「東西南北」としました。
（麻雀がお好きな方は、「東南西北」と読み替えてもいいでしょう！）
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なお、スタンダード・ソングの原詩や日本語訳を、どーしても知りたいという勉強熱心な方には、「ジャズ詩大全」（中央アート出版）１〜17巻 別巻：２巻を推薦します。当コンテンツの執筆でも参考にさせていただいている素晴らしい全集です。
アニタ・オデイの『コール・ポーター・ソングブック』（Verve）は、派手なアレンジのビリー・メイ楽団を相手に、鉄火肌のアニタが豪快にスウィングする快唱盤。このアルバムでのアニタは、まるで短距離競走のランナーみたいに、超高速で突っ走っています。ちょっとスピード違反っぽいですが、ダイナミックに推薦。
対照的に、春霞の如くソフトに漂うハスキーヴォイスは、ヘレン・メリル。
この人の魅力って、以前はまったくピンとこなくて、銘盤の誉れ高いクリフォード・ブラウンとの共演盤（EmArcy）さえ買ってロクに聴きもせず売り飛ばしてたくらいでしたが、最近になって、ようやく目覚めました。1958年２月18日、ヘレン、27歳のときの録音。実に艶っぽくてタマランです。ボビー・ジャスパー（fl）、ビル・エバンス（p）、ジョージ・ラッセル（g）、オスカー・ペティフォード（b）、ジョー・ジョーンズ（ds）と、豪華な顔ぶれがバッキングを務めています。
アニー・ロスのPacific盤も、チェット・ベイカー（tp）、ジェリー・マリガン（bs）など、西海岸のスター・プレイヤーが顔を揃えた豪華盤。1958年２月11日の録音ですから、チェット・ベイカーも絶好調。アニー・ロスの代表作に挙げられている１枚です。
最後に演奏盤を１枚。
マイルス・デイビスの代表作というだけでなく、モダンジャズ史に燦然と輝く『'Round About Midnight』（Columbia）。1956年６月録音。
ジャズ評論家の油井正一先生に「一家に一枚の必携盤」と言わしめた名盤です。
