You're the Top

You're the Top

1934年
作詞・作曲/コール・ポーター Cole Porter

稚拙な自作の歌を披露するのは好きじゃないけど
君の素晴らしさを伝えたくてたまらないんだ

君は最高だよ!
コロシアムだね、ルーブル美術館だね、シュトラウスのシンフォニーだね、
シェイクスピアの詩だね、ミッキーマウスだね、ナイル川だね、ピサの斜塔だね、
神秘的なモナリザの微笑だね
僕は不渡り小切手、ゴミ当然の駄目な奴
僕は最低だけど、君は最高だね!

あなたが作った詩は輝いてるわ
聞いたら背筋が震えるくらいに素敵よ

あなたは最高よ!
マハトマ・ガンジーよ、ナポレオン(ブランディ)よ、夏のスペインの夜景よ、
ロンドン国立美術館よ、グレタ・ガルボの給料袋よ、ディナーの七面鳥よ、
ダービーに優勝した馬のタイムよ
わたしはすぐに破裂しちゃうゴム風船
わたしは最低だけど、あなたは最高よ!

君は最高だよ!
リッツ・ホテルで飲むホット・ブランディだね、ロールスロイスだね、
水辺に浮かぶボートだね、ジョージ・ネイサンの劇評だね、
大司教ヘンリー・マニングだね、
ブロッコリだね、コニー・アイランドの夜だね、アイリーン・ボルドニィの瞳だね
僕は壊れた人形、ガラクタさ
僕は最低だけど、君は最高だね!

君は最高だよ!
君はスワニー・リバーだ、ガチョウのレバーだ
あなたはヘビー級チャンピオンの挑戦者よ
君はロシアのバレエだ
あなたはルディ・バレーよ
君はフィノラックス(便秘薬)だ
あなたはそれよりマシよ
君はシロツメクサの野原だね
僕はパーティの後の汚れた床だよ
僕は最低だけど、君は最高だね!

1934年のミュージカル『Anything Goes』からのナンバー。
初演の舞台はエセル・マーマンとウィリアム・ギャグストンのデュエットで唄われ、36年版の映画『海は桃色』ではマーマンとビング・クロスビー、56年版の映画『夜は夜もすがら』では、クロスビー、ミッツィー・ゲイナー、ドナルド・オコナーが唄っていました。

コール・ポーターは、パリの高級レストランで食事しているとき、ふと、この料理に匹敵する最高のものってなんだろう、とリストアップしたのが「You're the Top」のオリジナルの歌詞になったと「ニューヨーカー」誌の記者に話しているのですが……
別のインタビューでは、ライン川をカヌーで下っていたときに思いついた、と応えています。
相変わらず嘘の多い男です。(笑)

名詞をポンポン列挙してゆくリスト・ソングの代表作で、次から次ぎへと名詞が出てくる、その小気味良さが魅力です。
日本語に訳してしまうと分かりにくくなりますが、例えばフィナーレにある「君はスワニー・リバー(You're my Swanee River)、君はガチョウのレバー(You're a goose's liver)」、「君はロシアン・バレエ(You're a Russian ballet)、あなたはルディ・バレー(You're Rudy Vallet)」みたいに、韻を踏んだ(地口=ダジャレ)フレーズが頻発して楽しいですね。
この曲は7番まで歌詞があって、4番以降、フレッド・アステアだね、ユージン・オニールのドラマだね、ジミー・デュランテの鼻だね、ダンテの地獄篇だね……と続きます。ここでは1〜3番とフィナーレ部分を紹介しました。

また、このタイプの歌は流行に敏感で、1935年のロンドン公演でも既に歌詞が書き換えられていましたが、上記の映画でも歌詞が多少変えられて唄われています。
それをきっかけに、新しい歌詞を作って替え歌にするのが流行りました。
プロ・アマ問わず、多くの人たちが歌詞を作り、多いときには1ヶ月に300の歌詞がポーターのところへ送られてきたそうです。

その中でも異色なのがアーヴィング・バーリン版の替え歌で、「You're the breasts Venus(君はおっぱいヴィーナスだ)、You're King Kong penis(あなたはキング・コングのチンチンね)」、「You're self-abuse(君は手淫)、You're an arch(あなたはその時の腕ね)」と卑猥極まりないです。
名曲「White Christmas」の作者は、とんでもないものも残していました。

Vocal Jazzの愛好家が大喜びしたのが、「You're the Bop!」と唄ったアニタ・オデイ版の歌詞です。
「You're the Bop!(あなたはバップね)、You're like Sarah singing(あなたはまるでサラの歌みたい)、You're the Yardbird swinging(あなたはヤードバードがスウィングしてるみたい)、You're Lester Young(あなたはレスター・ヤングね)」
野暮を承知で補足すると、サラはサラ・ヴォーン、ヤードバードはチャーリー・パーカー。
このあとベニー・グッドマンやリナ・ホーンの名前も出てきて、無意識に頬が緩みます。エンディングのスキャットも実に小粋です。

録音が古いので音質はDランクですが、コール・ポーターが、その歌声にぞっこん惚れ込んでいたエセル・マーマンのオリジナル歌唱も紹介しておきます。
なお、これも野暮を承知の蛇足ですが、宮本亜門が作・演出した『I Got Merman/アイ・ガット・マーマン』は、この天才舞台女優をモデルにしたミュージカル作品です。
元があまりにも巨大な存在だっただけに、どう足掻いても負け戦ですが、けっこう人気があったみたいで何度も再演されていますね。

フランク・シナトラはABCのテレビ番組でエセル・マーマンと共演した際に「You're the Top」をデュエットしていて、そのときの録音は現在「Classic Duets」(Capitol)というコンピ盤に収録され、該当の映像も同名のDVDで見ることが出来るそうです。

ミュージカル『Anything Goes』関連CD(Amazon.co.jp)
『The Ultimate Cole Porter Vol.2』Original Cast Recordings
『夜は夜もすがら』1956 Motion Picture Soundtrack
『Anything Goes』1962 Off-Broadway Cast
『Anything Goes』1987 Broadway Revival

「You're the Top」収録アルバム (輸入盤CD)
「ユーアー・ザ・トップ」収録アルバム (国内盤CD)
コール・ポーター (DVD・CD/楽譜、伝記・評伝など)

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