1954年
作詞・作曲/バート・ハワード Bart Howard
詩人たちは、いろんな言葉を使って世の中のことをシンプルに表現してるわ
だから、私も歌詞とメロディを使って、あなたに歌を捧げることにしたの
でも、分かりにくいところは別の言葉に置き換えて表現するわね
私を月に飛ばして頂戴
そして星の空間で遊ばせて頂戴
木星や火星の春はどうなってるのか見せて頂戴
でも、これを別の言葉で表現するなら、手を握ってって意味なのよ
つまり、キスして欲しいってことよ!
私のハートを歌で満たして頂戴
そして永遠に歌わせて頂戴
あなたは私の永遠の憧れ、すべての尊敬と崇拝
でも、これを別の言葉で表現するなら、ずっと傍にいて欲しいってこと
つまり、あなたを愛してるってことよ!
原曲はバート・ハワードが1954年に作詞・作曲した「In Other Words」というタイトルの3/4拍子のワルツ曲。最初の録音はケイ・バラード(Kay Ballard)でした。
1962年に、ピアニストのジョー・ハーネルがボサノヴァにアレンジしたとき、「Fly Me to the Moon」とタイトルを変え、それがヒットしたので以降は「Fly Me to the Moon」で定着しました。
ということで、1962年より前に録音されたレコードは、曲名が「In Other Words」とクレジットされています。(CD化の際に「Fly Me to the Moon」に置き換えられている場合もありますけどね)
また、62年以前の録音は、オリジナルに則してワルツで唄われているものが多いのですが、クリス・コナー(Bethlehem/55年5月録音)やアニタ・オデイ&ザ・スリー・サウンズ(Verve/62年10月録音)のように、最初のコーラスをワルツで唄い、繰り返しのコーラスをジャズィな4ビートで唄っているものもあります。
62年以降はボサノヴァ・リズムのほうが主流になったようで、ジュリー・ロンドン(Liberty/63年録音)やアストラッド・ジルベルト(Verve/64年録音)は、ボサのリズムをバックに唄っています。
ヘレン・メリルの日本録音盤『Bossa Nova In Tokyo』(Victer/67年3月録音)には、当時ボサノヴァに傾倒していた渡辺貞夫もレコーディングに参加しています。
伴奏のメインは前田憲男編曲のストリングス・オーケストラで、「Fly Me to the Moon」では中間部にあるわずか14秒のフルート・ソロが(たぶん)貞夫さん。
渡辺貞夫を目当てに買うとガッカリすること間違いなしのレコードですが、ヘレンの気怠くソフトなハスキーヴォイスは実に肌触りがよく、錚々たる上記のシンガーを押さえてでも推薦したい1枚です。また、このアルバムでヘレンは曽根幸明(作曲)の「夢は夜ひらく」も唄っているので、ゲテモノ愛好家にもオススメの1枚です。
(まったく関係ない話で恐縮ですが、「夢は夜ひらく」は園まりヴァージョンが好きです)
ボサ・リズムでの推薦盤をもう1枚。オランダの歌姫リタ・ライス、66年の録音。
変化のあるフェイクを用いず、ストレートにメロディを唄うリタの声質は庶民的で親しみやすいので、俺は「下町ジャズシンガー」と呼んでいます。
「ワルツ・フォー・デビー Waltz for Debby」ほか、有名曲をズラリと並べた選曲も魅力です。
ところで、この項を書くために曲名をキーワードにネット検索したところ、膨大なページがヒットしました。そのほとんどが1997年製作のアニメ映画『新世紀エヴァンゲリオン』関連。まぁ、どんな形であるにせよ、往年のスタンダード・ナンバーが若い人に聴かれるのは嬉しいことで、これを足がかりにスタンダード・ソングに興味を持っていただければいいと思います。
映画への流用といえば、クリント・イーストウッドの『スペース カウボーイ』(2000年)では、フランク・シナトラ&カウント・ベイシー楽団のヴァージョンが使用されていました。
『It Might As Well Be Swing 』(Reprise)は、ボサノヴァ・ブームだった1964年6月の録音ですが、シナトラは粋な4ビートで唄っています。オーケストラ・アレンジはクインシー・ジョーンズ。
この曲はいきなり「私を月に飛ばして〜」と唄われているレコードしか聴いたことがなく、ヴァース(前口上のようにして唄われる歌の導入部)が存在していたなんて、最近まで知りませんでした。
教えてくれたのは、イーディ・ゴーメの58年録音盤『Eydie In Love』(Paramount)。
イーディ・ゴーメは、日本では、1980年ごろに煙草屋のCMでリバイバル・ヒットした「The Gift(Recado Bossa Nova)」くらいでしか知られていませんが、キュートで素直な歌唱は魅力的で、もっと人気があっても良さそうなものです。最大のヒットとなった「The Gift(Recado Bossa Nova)」を収録した『Blame It on the Bossa Nova』(Sony)でさえ入手困難な現状は、絶対におかしいと思います。
(追記:『Blame It on the Bossa Nova』はヴィヴィド・レーベルより再発売されました。)
『Eydie In Love』の伴奏は、ドン・コスタ編曲指揮によるストリングス・オーケストラ。オリジナルに忠実なゆったりとしたテンポのワルツをバックに、イーディ・ゴーメの歌声はうっとり夢見る乙女。数ある「Fly Me to the Moon」のなかでも屈指の出来です。このヴァージョンを聴くと、(後年ボサ・リズムで人気を得た曲ですが)スローテンポのワルツで唄われるのが正解なのが分かります。
イーディ・ゴーメの「In Other Words」があまりに素晴らしかったので、今回の歌詞は彼女のイメージで意訳しました。(最近は面倒くさいから省略していましたが)今回は奮発して、ヴァースの歌詞も意訳しました。
2005/09/24 追記
リタ・ライスの『Relax with Rita & Pim』が廃盤になっているようなので、推薦盤にアストラッド・ジルベルトのVerve盤を追加しておきます。
2006/09/10 追記
シナトラ&ベイシー楽団の『It Might As Well Be Swing』が廃盤になったようなので、代わりに「Fly Me to the Moon」を収録しているシナトラのベスト・コンピレーション盤を紹介しておきます。
すべて『It Might As Well Be Swing』収録のものと同じ音源ですので、他の収録曲目や組枚数など比較して、お好みのCDをどうぞ。
「The Reprise Collection」(4枚組/81曲)
「A Fine Romance the Love Songs」(2枚組/50曲)
「The Very Best of Frank Sinatra」(2枚組/40曲)
「My Way: The Best of Frank Sinatra」(1枚/24曲)
「Greatest Love Songs」(1枚/24曲)
「Sinatra Reprise: The Very Good Years」(1枚/20曲)
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