マイライフ・アズ・ア・ドッグ

マイライフ・アズ・ア・ドッグ
Mitt Liv Som Hund

1985年/スウェーデン/102分 (日本公開:1988年12月)

  • 製作 バルデマル・ベルイェンダール Waldemar Bergendahl
  • 原作 レイダル・イェンソン Reidar Jonsson
  • 脚本 ラッセ・ハルストレム Lasse Hallstrom
  •     レイダル・イェンソン Reidar Jonsson
  •     ブラッセ・ブレンストレム Brasse Brannstrom
  •     ペール・ベルイルント Per Berglund
  • 監督 ラッセ・ハルストレム Lasse Hallstrom
  • 撮影 イェリエン・ペルション Jorgen Persson
  • 音楽 ビョルン・イシュファルト Bjorn Isfalt
  • 出演
  • アントン・グランセリウス Anton Glanzelius(イングマル)
  • メリンダ・キンナマン Melinda Kinnaman(サガ)
  • マンフレド・セルネル Manfred Serner(エリック)
  • アンキ・リデン Anki Liden(ママ)
  • トーマス・フォン・ブレム Tomas Von Bromsson(グンネル叔父さん)

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1950年代後半、スウェーデンの海辺の小さな町と山間のガラス工場の村を舞台に、人々との出会いと別れを通して人生に目覚めてゆく少年の姿を瑞々しく描いた名作。
87年度NY批評家協会外国語映画賞、ゴールデン・グローブ外国語映画賞を受賞。
同年度のアカデミー賞でも監督賞と脚色賞にノミネーションされ、ラッセ・ハルストレムにとってはハリウッド進出のきっかけとなった出世作。
日本では1988年12月末に、フランス映画社の配給で日比谷シャンテ・シネ2にて公開され、12月24日から6月23日まで26週間のロングランを記録。興行収入1億6800万円の大ヒットとなりました。

孤独な少年が人々との出会いと別れを通して、人生に目覚めてゆく姿……そんな手垢にまみれた通り一遍の解説では、この映画の魅力はなに一つ語られていないに等しい!

「人工衛星に乗せられ宇宙に飛ばされたライカ犬。(自分のいまの状況は)あのライカ犬よりはマシだろう」……満天の星を見上げながら、そう呟いてみることで、少年は自分の境遇を納得させようと試みています。
「この話を元気だった頃のママに話してあげればよかった。きっと笑ってくれたに違いない」……日光浴している母親の前で、でんぐり返りをして戯けていた過去を、少年は頻繁に振り返ります。
わずか12年しか生きていないのに、達観した言葉を呟きながら生きている少年。
これは、小津映画では老齢の夫婦……菅井一郎と東山千栄子(『麦秋』)や、笠智衆と東山千栄子(『東京物語』)が交わしていた、「欲を云いだしたらキリがない、これでも良いほうだと思わなけりゃ」のセリフにも通ずる、諦観の思想です。
美しく楽しかった過去の思い出と、やがて確実に訪れるであろう数々の悲劇。
その狭間に生きる少年の心情を、センチメンタルに流されない絶妙の距離間でユーモアを交えて描き、巨大な宇宙の摂理とちっぽけな1人の少年の存在を対比させた視点が抜群に素晴らしく、俺の心の奥に深く残る、特別な1本となりました。
(ライカ犬のモノローグは原作にはなく、映画のオリジナルです)

未見の方はこれを読まれて、暗ぁ〜いお話なんだろうな、と思われたかも知れません。
ぜんぜん暗くはないですよ。むしろ見終わったあとに、爽やかな印象が残る映画です。
「暗い」ではなく、「深い」映画です。

夜空に輝く満天の星、でんぐり返しで母親を笑わせる少年、母親の笑顔、飼犬シッカンとの交流、牛乳が飲めずブルブル震え出す少年、濡らしたシーツをキッチンに隠し叱られる少年、少年を温かく迎える山村の叔父さん夫婦、借家の敷地内に勝手に阿舎(あずまや)を作っている叔父さん、下着の広告を少年に読んでもらって恍惚の笑みを浮かべるおじいさん、屋根の修理が趣味で一年中屋根に登ってトンカチを打っているヘンなおじさん、ガラス工房で働いている色っぽいおねえさん、そのおねえさんをモデルに彫像を作っているスケベな自称芸術家のおじさん、少年の前から鮮やかにポールを奪って走る活発な少女、好奇な視線をあびる緑色の髪の少年、納屋の二階で催される子どもたちのボクシング、綱渡り名人の曲芸、タイトルマッチのラジオ中継に夢中になっている村人たち……書き出すとキリがありません。

脚本、撮影、音楽、演技……すべてが理想的に作られた、完璧に素晴らしい映画です。
これ見よがしにケレンを利かせて作り込んだ映画ではありません。
(こんなことは実際は有り得ないのですが……)製作に関するすべての作業が自然の摂理によってに成されたような、ナチュラルな映画に仕上がっています。
その辺りは、奇人変人がウヨウヨしている山村でのエピソードに、まったく作為的なウソが感じられないことからも明らかです。
映画を観た人はきっと、スウェーデンの何処かに、あの山村が実在していると思い込んでしまうことでしょう。

ラッセ・ハルストレム(Lasse Hallstrom)は、1946年、ストックホルム生まれ。
アマチュア映画作家だった父親の影響を受け、少年時代から8ミリ・キャメラを回していたそうです。処女作は10歳の時に撮った『幽霊泥棒』というショート・フィルム。音楽学校を卒業したあと、ポップ・ミュージシャンの16ミリ映画を撮ったりしていましたが、1975年に『En Kill ochen tjej(恋する男と彼の彼女・日本未公開)』で長編デビュー。
これが認められて、当時世界的にヒットチャートを賑わしていたアイドル・グループABBAの映画(『アバ/ザ・ムービー』1977年)を手掛け、高い評価を得るようになりました。

『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は、レイダル・イェンソンの自伝的要素の強い小説(邦訳あり)を、原作者を交えた4人のチームで脚色した映画です。
主人公のイングマルのモデルとなったのは、当然、原作者(レイダル・イェンソン)自身でしょう。彼の本業はもちろん著述業ですが、近年は(たぶんこの作品がきっかけになって)映画製作にも興味を持ち準備を始めていると、公開当時は紹介されていました。(近況はどうなんでしょう?)
強烈な個性の人物が大勢登場する映画ですが、なかでも一際印象に残るのが、クールな美少女・サガ。男の子のままでいたいと膨らみ始めた胸にタオルを巻き、それでもおっぱいを隠しきれなくなって諦める態度に、少女期の終焉(生理が始まるまでもう少しの繊細な時期)が素朴に表現されていて良かったです。モデルとなった人物は、その後、単科大学で工学教授になったそうですが、演じたメリンダ・キンナマンは、この映画の成功で人気を獲得し、テレビドラマに出演するようになりました。

母親の病状が悪化したために少年が預けられる山村は、スウェーデン南東部に位置するスモーランド地方にあったオーフィルシュという小さな村です。
スモーランド地方は現在も、ガラスの王国と呼ばれるほどに、世界的に有名なガラス工芸品の産地ですが、舞台となったオーフィルシュ村は、過疎化で今は誰も住んでいないそうです。
「映画に登場した奇人たちは、みんな村を出ていってしまい、町に移って、そこで平凡な住人となってしまいました」(ハルストレムのインタビューより)
あの風変わりでユーモラスな、そしてたまらなく懐かしい村の住人たちは、もうこの世に存在していません。

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