1960年/アメリカ/200分 (日本公開:1960年12月)
『ロード・オブ・ザ・リング』の戦闘場面を見ていて、どうも以前見たことのあるような映像だなぁと既視感に悩んでいましたが、どうやらこの映画を観ていたせいだったみたい。
アメリカ西部史に残るアラモ砦の攻防戦を描いたジェームズ・エドワード・グラントのオリジナル・シナリオを、ジョン・ウェインが製作/初監督した、1960年の超大作西部劇。
10分余に及ぶクライマックスの戦闘場面は、GCなど無かった時代によくぞここまでやった、と絶賛せずにはいられません。
何千人使ったのか、手許にデータがないので正確な員数は分かりませんが、この膨大なエキストラを、実際に作戦に基づいた戦争をしているように見えるよう、ちゃんと動かしただけでも、ジョン・ウェイン監督は偉いと思いますね。
メキシコ兵が砦になだれ込んでくるあたりの迫力は、生身のエキストラが動いているだけあって、CGアニメとは桁違いに情報量が豊かだし、ハラハラドキドキの大興奮。
馬が疾走する場面やスタンピードの場面は、師匠譲りのコマ落とし撮影で、スピード感抜群の仕上がり。(たぶんフィルムのコマを何度も継ぎ接ぎして、ギリギリのスピードにしたんだろうな……これ以上やっちゃうと、パラパラ漫画みたいなコミカルな動きになっちゃうもの)
ドラマ部分の演出も正攻法で手堅く、職人芸の域に達しています。
砦のなかで対立するトラビス大佐(ローレンス・ハーヴェイ)と義勇軍の親玉・ボウイ(リチャード・ウィドマーク)の両雄それぞれに華を持たせたあたり、俳優監督ならではの配慮とみました。
総攻撃の前に伝令を走らせ、非戦闘員の退去を促すメキシコ軍の将軍。
敵軍をあからさまな悪役としなかったのも、公明正大なジョン・ウェインらしくって好感が持てます。
多彩な登場人物の見せ場にも気を配り、ストーリーの流れに混乱は微塵もありません。
初めてとは思えない、達者な演出ぶりです。
戦闘場面以外は見るべきものがない、なんて偉そうにほざいている莫迦は、ちゃんと観たことないんでしょう。
しかしながら、休憩を挟んで3時間20分は長い。我が国での『忠臣蔵』みたいな位置にある内容だと知っていても、長い。何処といって悪いところはないけど、途中で3回くらい、かったるくて見続けるのがイヤになっちゃいました。
ジェイムズ・ボウイの妻が疫病で亡くなった知らせが、メキシコ軍に包囲されたあとで砦に届けられますが……スターリング・ヘイドンがボウイを演じた『アラモの砦』(1955)では、奥さんの病死をきっかけにテキサス独立運動に参加するストーリーだったし……どっちが史実に忠実なのかは知らないけど、初監督で張り切っちゃったウェインは、アラモ砦の攻防戦に関係するエピソードはすべて網羅した、決定版でないと気がすまなかったんでしょうね。
メキシコ女(リンダ・クリスタル)とデビー・クロケット(ウェイン)のエピソードなど、バッサリ切っちゃっても良かっただろうに。(これ、『忠臣蔵』だったらお軽勘平のエピソードみたいなもんかな?)
(映画では、致命傷を負ったデビー・クロケットは、自ら爆薬庫に飛び込んで爆死しますが、史実ではメキシコ軍の捕虜になって、その後、処刑されたそうです)
この映画、クライマックスの戦闘場面と並んで特筆すべきは、ディミトリ・ティオムキンの音楽。
3時間20分の、そのほとんどの場面に、べったりと音楽が貼り付けられています。
手法としてはミッキーマウジングなんですが、それぞれのメロディが実に印象的で、まるで音楽映画のような賑やかさです。
主要なテーマだけでも、「アラモのバラード」「グリーンリーブス・オブ・サマー」「デビー・クロケット」「テネシー・ベイブ」「皆殺しの唄」と並びます。
それら多彩なメロディが、ときに激しく、ときに優しく、叙情的に、情熱的に、ときにユーモラスに、巧妙に綴られていて、まるで音楽絵巻のような様相を呈しています。
1995年にCD化されたサウンドトラック盤は、LPから洩れていた楽曲に(編集が巧いのでぜんぜん邪魔にならない)映画からのセリフも収録され、ブラザース・フォアの「グリーンリーブス・オブ・サマー」とマーティ・ロビンスの「アラモのバラード」も網羅された豪華仕様。
映画音楽を聴く悦びがギッシリ詰まっています。
最初から最後まで1枚全部をきちんと聴いてしまう数少ないサントラ盤の1枚。ティオムキン畢生の名作、西部劇音楽の金字塔であります。
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