standard songbook / Time On My Hands

腕の中にあなたがいる、そして時が流れる
一生に一度きりの、そして永遠の恋にあなたが落ちたなら
その時こそ、私のすべての夢が叶う時

愛する者たちの時間、それは二人のためにある
腕の中にいるあなたと共に時を過ごす、あなたへの愛で心を満たして

フレッドとアデールのアステア姉弟が出演した1930年のミュージカル『Smiles』で、マリリン・ミラー（Marilyn Miller）とポール・グレゴリー（Paul Gregory）がデュエットで唄った曲。
作曲のヴィンセント・ユーマンズは変わり者で、百姓のような麦藁帽子を被り、服装も無頓着。とてもブロードウェイのソングライターには見えなかったらしいです。
夜更かしの性格だったので、仕事はいつも深夜。まだ無名だった頃のマックス・スタイナー（Max Steiner）は、彼のオーケストレイションを手伝っていたために目を悪くしたとの逸話が残っています。ユーマンズはピアノで基本コードを弾きながら、口笛でメロディを吹き、スタイナーはそれを譜面に書き取っていたとのことで、アカデミー賞を４回受賞した映画音楽の巨匠（ノミネートは２８回！）も、そんな下働きの時代があったなんて。人生は一筋縄ではいきませんなぁ。
この「Time on My Hands」にはヴァース（導入部のメロディ）もあるのですが、歌い出しの旋律が魅力的なせいか、唄っている人は少ないようです。

ビリー・ホリデイの気怠い歌唱を聴いていると、時の流れにどっぷりと浸っている気分（もちろん腕の中には愛しの彼女がいるわけです！）が味わえます。枕元の電話をとって「時間延長お願いします」って言いたくなっちゃいますね。……火暴！

エロール・ガーナーのレトロなピアノの響きは、そんな幸福だった失われた過去を懐かしむ感じでしょうか。６０過ぎてこの演奏を聴いたら、う〜ん、涙をこぼしそう。
残念ながらＣＤ化されていません。（2003年現在）

この手の曲を料理させたら抜群に上手いのは、スタン・ゲッツ。
名手デューク・ジョーダンの軽やかなイントロに導かれて、奇を衒わないメロディが魔法のように紡ぎ出されます。中間部にジミー・レイニーのギターとジョーダンのピアノを挟んで、３分弱が一瞬に過ぎていきます。
このVerva盤のオリジナルＬＰには12曲が収録されていましたが、ＣＤ化に際して４曲が追加されました。しかし国内盤のなかにはオリジナル偏重で追加曲を収録していないものもあり、購入される方はご注意ください。

ベン・ウエブスターのむせぶサックスも、いいムードを醸し出しています。
変わったところでは、マレーネ・ディートリッヒがドイツ語で唄っているレコードもあります。中間部はセリフですぜ！　但し、歌詞はまったく違う内容になっているらしいです（英語もちゃんと訳せないのに、ドイツ語なんて無理っすよ！）。

ジョニ・ジェイムスのレコードは、数年前にDIWがオリジナル・スタイルでまとめてＣＤ化しましたが、現在はすべて廃盤。オリジナル「Mood」シリーズ３枚（「Mood Is Swinging」「Mood Is Blue」「Mood Is Romance」）をカップリングしている輸入盤がお徳用です。

「Time On My Hands」収録アルバム　（輸入盤CD）

「タイム・オン・マイ・ハンズ」収録アルバム　（国内盤CD）

ヴィンセント・ユーマンズ　（ＤＶＤ・ＣＤ／楽譜、伝記・評伝など）