チャンバラ喜劇

まらそん侍

大映/90分 (公開:1956年2月)

上州安中藩の若侍(勝新太郎・夏目俊二)が、家老の娘(瑳峨三智子)を巡って、「遠足の儀(マラソン大会)」で早足を競い合うというチャンバラ喜劇。
他愛のない恋の鞘当てがストーリーの主軸で、これに藩に代々伝わる黄金の煙管を盗もうと企む盗賊一味(トニー谷、益田喜頓、旭輝子)が絡む。
1955年にNHKでオンエアされた放送劇(ラジオドラマ)「安政奇聞まらそん侍」(作・伊馬春部)を八木隆一郎がテンポ良く脚色。監督は森一生。

見どころは、家老の娘に結婚を申し込みアッサリ振られちまった大泉滉(次席家老の息子)の、へなちょこぶりに尽きます! 冒頭のマラソン大会では堂々1位の早足なのだが、その走り方は珍妙奇天烈、ふらふらふにゃふにゃ。こんな走りで1位になれるワケないのだが、それを言っちゃぁお仕舞いだよ。映画のウソと割り切るしかありません。実際に移動キャメラに捉えられたあのおどけた走法はかなりのスピードが出ていて、大泉滉のフットワークは惚れ惚れするほど素晴らしい! これだけは映画を見て戴かないと分からない。実にヘンテコ、かつ、愉快。
もう一人のコメディリリーフ、トニー谷はお馴染みのソロバン芸や唄も披露しているが、パッと弾けない。
メインの明朗青春スポ根ドラマが、うす〜い内容なので、どうしても脇役ばかりに興味がいってしますね。
家老の娘(瑳峨三智子=山田五十鈴の娘さんってこと知ってました?)の「へっちゃらよ」のセリフが実にイイ。現代にも通用する自立した女性像に好感がもてます。勝新の若侍にぞっこん惚れ込んじゃった茶屋の看板娘(三田登喜子)も、積極的に行動(<おいおい、あんたは町人、相手は武士なんだぜ)するし、フェミニズム濃厚な映画であります。

ちなみに安中藩の「遠足の儀」は史実にも残っているそうで、地元の酒屋さん(山賀酒店)では「まらそん侍」という清酒を造っています。

ドドンパ水滸伝

大映/74分 (公開:1961年6月)

時は元禄15年、夏。
江戸では亡君浅野内匠頭の仇を討たんとする赤穂浪士の討ち入りが、いつ敢行されるのかが巷の話題になっていた。そのころ……
江戸の庶民に流行していたのが、中山安兵衛の作曲、大高源吾の作詩による「どどんぱ音頭」。艶歌師・まり江(渡辺マリ)の唄とリズムに乗って、町人たちは老若男女、こぞって浮かれ踊っていた。
1961年の流行歌「東京ドドンパ娘」のヒットに便乗して企画された、痛快娯楽ミュージカル時代劇。水原弘(赤垣源蔵)もスペシャル・ゲストとして出演、持ち歌「裏町人生」をムードたっぷりに唄いながら登場(但し、立ち回りはヘタ)。

「どどんぱ音頭」のリズムを盗作した「どどんぱ教」なる怪しげな新興宗教。赤穂浪士の名を騙り非道の押入強盗を働く「台風組」。強欲な金貸しに借金のカタにとられてしまった長屋の娘(白鳥みづえ)を救うべく、賞金5両を目当てに酒飲みコンクールに出場する安兵衛(勝新太郎)。黄金の仏像を盗んだ村上権十郎(山路義人)を追って江戸を訪れた安兵衛の叔父・須貝甚左衛門(荒木忍)。濡れ衣の汚名を返上するため「台風組」の捜査をしている堀部弥兵衛父娘(益田喜頓と浦路洋子)。これらのエピソードにコメディリリーフの岡っ引き二人組(由利徹と南利明)を絡ませ、歌と踊りをたっぷり交えながら、クライマックスの高田の馬場へとテンポよく収束してゆく。これだけ詰め込んで、混乱もなく、上映時間はなんと74分!
これこそがプロの技であります。
たいした中身も無いくせに、だらだらした展開で時間を潰すテレビドラマは、是非見習って欲しい。
脚本は『月光仮面』シリーズで名を知られている川内康範。
この人、日本映画黄金期には、『森繁のやりくり社員』『金語楼のお巡りさん』などの喜劇から、『風が呼んでる旋風児 銀座無頼帖』『東京流れ者』などの無国籍アクションまで、幅広くプログラム・ピクチャーひとすじに脚本を書いてきた人。

高田の馬場へと駆けつける安兵衛の走りっぷりが豪快。
町屋の角を曲がるカットは、勝新太郎の走り、エキストラのリアクション、砂埃、キャメラが一体となった映画ならではの興奮が味わえる……素晴らしい。

ほんだら剣法

大映/86分 (公開:1965年12月)

クレイジーキャッツ全盛時代に大映で製作された、犬塚弘主演のスチャラカ時代劇。
仙台伊達藩に仕える若侍が、2メートルの大太刀を駆使したほんだら剣法と、持ち前の生真面目さで藩の危急を救うという内容。
野村胡堂原作「磯川兵助功名噺」を、東宝プログラムピクチャーの職人笠原良三が脚色。
監督は『まらそん侍』の森一生。

「無責任はもう古い、不真面目じゃ出世は出来ない」と、東宝「無責任」シリーズを揶揄した前口上で映画は始まるけど……笠原さん、ご自分の仕事を莫迦にしてはいかんでしょう。それも他社から依頼されたやっつけ仕事でやっちゃ、もったいないですよ。
犬塚弘の長身痩躯を活かしたほんだら剣法が唯一の見どころ? いやいや悪いけど、、犬塚さんには銀幕の主役を張れるような華はありません。ハナ肇の、な〜んにも考えてないくせに勿体ぶって偉そうな芝居も大嫌いだし。藩主陸奥守の藤田まことも嫌いだし。坪内ミキ子に振られた腹いせに闇討ちを仕掛けたり、兜盗難の嫌疑をかけたりする石橋エータローの小悪党ぶりも半端だし。ギャグは即物的でタメが無いから、まったく弾けない。
クレイジーキャッツの屋台骨は、植木等が一人で支えていたことが如実に分かります。

脚本もやっつけ、出演者もやっつけ。クレージーキャッツのファンが、資料として観る以外、な〜んにも取り柄のない映画です。

腰抜け巌流島

大映 (公開:1952年10月)

週刊誌の連載漫画を映画化したアチャラカ喜劇。
この時期の森繁久彌(武蔵)の動きを見ると、この人の原点がエノケン(榎本健一)にあったことがよく分かる。
佐々木小次郎の大泉滉ほか、エンタツ(沢庵和尚)、伴淳三郎(長岡佐渡守=タイトルでは渡辺篤とクレジットされている。いい加減だなぁ)、坊屋三郎(素っ破の佐吾郎)、山茶花究(吉岡伝七郎)、益田喜頓、清川虹子など、当時の軽演劇スターが総出演して持ちネタのギャグを連発。吉野太夫の丹下キヨ子はガラガラ声で唄も披露。主題歌は『腰抜け二丁拳銃』に影響されてかウエスタン・ソング風だが、劇中はブラームスやロッシーニなどホーム・クラシックをアレンジして散りばめた手抜き工事。
監督は(今となっては目を疑いたくなる)森一生!

日本娯楽映画史を語るうえで、一度は観ておく映画。
(二度は観たくない)
お通役・三條美紀の凛々しい美しさが際だっている。

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